彼女を引き取ったのは、紅葉が始まり僕の近所でも観光客が増え始
めた頃。

僕が16の時だった。








                                                            やわらかい殻










一回り以上年の離れた女の子。ほとんど娘に近い感覚だった。自然
に囲まれたこの土地は、周りの助けもあって、一人食いぶちが増え
たところで変わらなかった。

今時代、山奥でもインターネットがあればある程度生活出来る。仕
事もネットで出来るものを選べば問題ない。4つになった彼女は相
変わらず僕になついている。いや、なついているというより、他全
てを恐れているのだ。やっと歩けるようになった頃、家の外に彼女
は初めて出た。僕が珍しく留守にしている時だった為、オートロッ
クで閉ざされた家に入れなくなったのだ。

そのころの季節は天候が変わりやすく、あっと言う間に雲が広がる。
強い風や、大粒の雨、遠くで鳴る雷が彼女の恐怖心をあおった。


「おに、ちゃ…」


出先から戻った僕を彼女は泣き崩れながら出迎えた。その時の彼女
の眼が忘れられない。

僕だけを見ている。
僕しかいないと訴える瞳。

ぼくはこの目をいつまでもみていたい、と思ったのが最初。





外から買って来たものや、もらったものは必ず調理をして彼女の口
に運んだ。それをおいしそうに食べるのをみていると、親鳥の気持
ちが分かったような気がした。

どんなに簡単でも火を通したり、ごま油であえらりと手を加えるこ
とが重要だった。彼女にとって、僕の手を加えない食べ物は食べ物
ではない。一切口にしなかった。

寝るときは、同じベッドだった。それは夏も冬も同じで、僕の体温
がなければぐっすり眠れないようだった。


「にいちゃ、これ何?」
「卵だよ」
「たまご?」


彼女が興味を示したのは近くの養鶏所からもらって来た卵だった。
卵が珍しいのではなく、その中の一つが楕円ではなく正球なところ
にある。市販されているものは冷たく、硬い。それとは逆に、生ま
れたばかりの卵はとても温かい。その時の卵は形を変えやすく、扱
いに注意しなければならない。


「生まれたての卵はね、形を変えることが出来るんだよ」
「ふぅん」


まだよく分からない、といったように彼女は首をかしげた。
そう、知らなくて良い。


彼女が外に出たいと言えば、晴れ以外の日を選んだ。
生の野菜は彼女の嫌がる苦いものを。
十分に昼寝をした日は、一緒に寝なかった。


生まれたばかりのやわらかな殻をもった卵は、手のひらの中で転が
せば、好きな形に形を変える。僕をそれを知って、彼女に笑顔を向
けた。


彼女にとって、唯一の存在として。















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