深夜番組 夜中の2時10分。友達連中と飲み倒し、最後はうちに来いと言っ た。騒げるだけ騒いで酒も抜けかけた丑三つ時。つけっぱなしのテ レビから聞いたことある声が聞こえて来た。 「オレ、男だって。てゆーか、これテレビ?」 深夜のテンション頼りのテレビ番組。売り出し中の芸人が夜の街へ 繰り出し、可愛い女の子を何人ナンパ出来るかを競う、なんともく だらない内容だ。その番組中、芸人に声をかけられ振り向いた男。 見覚えがあった。 「あいつや…」 数ヶ月前、ふとした出会いをした男だ。内容的には時間が経てば忘 れるような生易しいものではない。あれから彼が何度夢に出てきた か分からない。番組の中のテロップは相変わらず中身のない会話を 字にして現している。 「やー、ほんとに可愛い子だったなぁ」 「ナンパのカウントに入ったかも」 「お前じゃ無理だ」 「お前に言われたかねー!」 お決まりの笑いの流れで、あっという間に彼は画面からいなくなっ た。しかし、画面から目を離すことはしない。場所を示しそうな目 印を必死に探す。看板、店、コンビニ、道路。時間帯は夜だった為、 鮮明には映っていない部分が多い。それでも、彼がいるかもしれな い場所の情報を逃すまいと、それこそかじりつくようにテレビを食 い入った。 区切りよくCMに入り、どこかのタレントが缶酎ハイの宣伝をしてい る。そうして、ようやく我に返った。 (…別に会いたいわけとちゃうし) 自分に言い聞かせたが、しっかりと場所をメモした紙を捨てること が出来ない。パソコンをつけて、メモと見比べながらどうしたら彼 のいる地に行けるのかを探している。 彼と賭けをしたパチンコに負けた。だから、リベンジするためにち ょっと探しに行くのだ。そう、たまたま会ったとしても旅行先で偶 然で、あれ、お前だれやったっけくらいの会話が出来れば良い。そ れで…。 「…それでってなんやー!あほか俺ー!!」 自分で自分につっこみを入れてから数十時間後、新幹線から乗り継 いだ在来線を降りた。折りたたんだメモを開き、駅の東口を出る。 かすかに残る深夜番組の映像の記憶を頼りにふらふらと町に繰り出 す。 ファッションショップが立ち並ぶ場所から外れ、夜になれば賑やか になるであろうネオン街へ出た。昼間からでも賑やかなのは彼と出 会ったパチンコ屋だ。もっともそれは、地元のパソコン屋であって 目の前にあるものではない。 だが確かに見たのだ。あの番組の中でここの看板を。 未だかつてこんなに祈るような気持ちで店に入ったことがあっただ ろうか。 「…いや、あったなぁ」 残金も少なく、生活費を稼ぐ為に入った時だ。しかし、今は行きず りになった男に会えないかどうかというところ。自分の気持ちがそ れと生死の問題が対等に感じていることに驚いた。思ったよりも広 い店内。入り口から順番に席を確認していく。 一列目、二列目、三列目…。彼がいないことが分かる度、確認する 列が少なくなって行くことに不安を覚えた。心臓を真綿で徐々に締 め付けられているようだ。最後の列。角の台にオレンジ色の缶を見 つける。彼の好んでいた飲み物だ。まさかと思い少しの距離を走る。 「んなわけないわな…」 空席だった。缶は忘れて行ったものだろう。奇跡的な確率に期待を した自分が馬鹿らしくなる。台を見ると玉の入りやすそうな釘の配 置だ。これも何かの縁だと思い、座ることにした。 「そこ、オレの席」 「何言ーて、」 座っていた椅子に振動が走る。言葉だけで言えばわかるものを、わ ざわざ足までだしてどけと言っている。文句の一つも言ってやろう と声色を低く出し始めたあたりで、目を疑った。 いた。彼だ。目の前に一箱目一杯に銀色の玉を入れて、目の前に立 っている。 「あ、ごんべー。何やってんの、こんなとこで」 「…それ、本名と違てるで『なっちゃん』」 あの日、あの時間、あのチャンネル。この日、この時間、ここの席。 何かが1つずれていたら会うことはなかっただろう。偶然で片付け てしまうにはあまりにも乱暴なこの再会に、体が震えた。それを悟 られないように、再戦を申し入れる。次は勝つ、と意気込んで椅子 に座った。 ブラウザで閉じちゃって下さい *気まぐれな猫*http://kimagure.sodenoshita.com/*