煙草は嫌いだ。
だけれど、煙草を吸っている姿を見るのは好きだ。





「桐生の吸ってる銘柄って何、」
「赤マル」
「あかまる、」
「何だ、知らねーのかよ。吸ってみるか、」
「うん」




余程興味を惹かれたような顔をしていたのだと思う。桐生は少し笑って、慣れ
た手つきで箱の中から一本を取りだした。笑った口から紫煙が漏れる。確か、
連続しては吸えないのだそうだ。体の作りがそうなっているらしい。


桐生が吸う煙草の銘柄というやつはころころとよく変わる。
今回のは「あかまる」というやつらしい。それが銘柄の中でどんな位置にあっ
て、他とどう違うかは分からないけれど。
只彼が其れを好きなのだなぁ、とは分かっていた。いつもよりも同じ其れを吸
っている期間が長いからだ。




「不味い」
「お前、煙草似合わねぇな」
「まだ未成年だから」
「年は関係ねぇって。…つか、未成年だっけか、吸うな莫迦」
「勧めたの自分の癖に」
「忘れてたんだよ。悪かったな」
「ううん、別に。勿体ないから吸っておいて」
「オレに吸い差しやらせる気か、」
「いいでしょ、別に」



火を付けたばかりの煙草を桐生はすぐに私の口から引き離した。長さの変わら
ない、火のついたままの煙草が灰皿に置かれる。其の隣には桐生の吸った短い
煙草。数センチも違う。


桐生は文句を言いながらも、私の吸いかけをそのまま口に持っていった。間接
キスだ、と思ったらどうやらそれを言葉にしていたらしく、桐生の眉間に皺が
寄った。煙草を銜えたまま、莫迦、と言って頭を軽く叩かれた。


どんな味がするのか全く分からずに、いつも吐かれた煙を吸っていただけの私
にとって、それはやはり変わらずに不味い。其れを好んで吸うなんてどうかし
てる。煙草の中には麻薬物質が含まれているというけれど、其れがなかったら
きっと吸う人はいないのだろうと思う。




「なんで煙草吸うの、」
「…なんでって。好きだから」
「どこが」
「忘れた」
「前は理由があったんだ」
「多分な。どーでもいいだろ、そんな事」
「銘柄は変えないの、」
「今は是れが一番しっくりくるからな」
「…、ふぅん。そうなんだ」





それはどこか自分と桐生の関係に似ていると思った。






煙草は嫌いだ。
だけれど、煙草を吸っている彼の人は好きだ。






彼がマルボロ以外を吸う事がありませんように。













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