感情が昂ぶると、この体は雷雲を呼んだ。それは自分の能力が上が
っている証拠であり、制御しなければいけない力だった。

今年で10歳になる。








                              かみなり










両手のひらを広げてランボは思った。びりびりと手が電気をまとう。
指と指を近づければその間でぱちりと青く電気が光る。雷雲が近く
まで来ると、この体は帯電し始める。指をつかってぱちぱちと鳴ら
すこの遊びを、ランボは気に入っていた。感触だけで痛さはない。
指の、手の中で小さな雷がはじけるようだった。

大自然の中にある雷を自在に操ることが出来れば、きっとボスも認
めてくれる。一人前になれば、ボンゴレ守護者の彼に近づける。ラ
ンボにとって、強くなる目標は皆と肩を並べることだった。資質だ
けでは生き残れないことを知っていた。だから力を手に入れようと
したのだ。

ボスは自分が望めばどんな武器でも与えてくれた。
ナイフや銃、手榴弾にワイヤー。それは今振り返ってみても甘やか
されていたと思う。もしかしたら、そのまま力におぼれていたかも
しれない。そうならなかったのは、リボーンのおかげだと思う。最
強のヒットマンへそれらの武器で攻撃すると、必ずそのままの威力
で返ってきた。その武器の威力を身を持って知り、痛みを覚えた。
それがどれだけ危険なものなのか知ることが出来た。

知ることが出来たのだ。





ケンカをした。
いや、対等だと思っているのは自分だけだと思うので、あれはケン
カではなかったかもしれない。いつものように口げんかになり、手
が出そうになると間にハルが入ってきた。彼の視線が彼女に行き、
眉間のしわが緩み、体に入っていた力が抜けていくのが見てとれた。

どうして彼の眼に映るのか彼女なのか。
どうして同じ時間を過ごせるのが自分ではないのか。
どうしてどうしてどうして。

それが嫉妬という感情だとは知らない。


(あの雲みたいだ)


窓の向こうに見える雷雲のように、ただただ黒く重い感情だった。
体がざわざわするのを抑えられそうになかった。だからその場を逃
げ出した。彼と彼女の空間にいるのが耐えられなかった。ドアに向
かう途中、彼の体を押した。ほんの、軽く。せめてもの抵抗のよう
に。この気持ちを知ってほしかったのかもしれない。彼の体を押し
た。

ばちん、と。
部屋の中が一瞬白くなった。明るい、という表現にしては強すぎる
光が、自分と彼の間に発生した。目がひどくちかちかする。


「獄寺さん!」


ハルがまっさきに駆け寄った。顔から血の気が引いている。彼は倒
れて動かなかった。ちかちか光る世界の中で、自分だけが近づけず
にいた。


(今、触れたら、いけない)


今しがた起こったことを懸命に思い出した。その事実を自分に言い
聞かせた。手に感触だけ残っている。じんじんとしているが痛みは
ない。痛いのはもっと別のところだ。

リボーン、君は僕がどれだけ危険なのか教えてくれなかったね。

涙が流れるのを抑えた。その分、体の内で熱がくすぶる。その感情
の一つ一つが電気に変わるようだった。

家から離れた原っぱに寝転がる。大声を出して泣いた。幼いころよ
り少しだけ低くなった声は、落雷の音にかき消される。雷はまっす
ぐ、自分に向って落ちてくる。雷だけ、自分にまっすぐ向かってき
てくれていた。その衝撃だけが身を震わせる。


「気は済んだか」


白光りする中で、黒帽子をかぶった男がこちらを見下ろしていた。
その表情は満足気だ。攻撃をされ、返した時の笑みに似ている。こ
の眼光が、自分にとっての雷になりえるだろうか。ランボは逆光で
見えなくなった男を見ながら、ぼんやりと考えていた。














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