指輪と感情の比例。




あたしは約束をしない。

あなたに物を貰わない。

誰も愛する事をしない。




不確定の未来。戸惑いだらけの現在。美化される過去。




あなたに会える約束をした。

この時間に、この場所で。

そこはいつもの待ち合わせ場所。

いつもより早起きをして。念入りに服装チェック。

今日も、彼に相応しい彼女になれるかな、なんて。


あなたは来なかった。

約束の時間から三十分後にメール。



『急用が入った。今日は会えない、ごめんな』



期待が大きい分、+が大きい分。

がっかりした気持ちが、−が足されて。

約束なんかしなければ良かった。






あなたに物を貰った。

小さなハートの装飾がされた、シルバーリング。

プレゼントだよ、と。

お揃いのリングを買った。

あたしはきっとこれを一生つけるのだと思った。




それを見る度に思いが募る。

きっと、この気持ちは際限なくて、どこまでも大きくなった。

そのまま一生を過ぎればいいと思っていた。







あなたと別れた。

あなたを愛した分、心臓が軋んだ。

聞き分けの良い女でいようと思って。

本音さえ言えなかった。


相手を無くしたリングが、薬指で光る。

体の一部のようだったそれが、まるで別の物質のようで。

鉛のように重く感じられた。




指から外して、其れが何を意味していたかを考える。




あなたとの時間。

共有の物質。

思い出。





目の奥が熱い。涙が零れる。別れたくない。

あなたと離れるなんて考えられなかった。

あなたと過ごしたあたしは、全てあなた中心で回っていた。


くるくる、くるくる


指から離れた指輪が、フローリングの床を転がる。





あなたがよくすわった椅子の下を通る。

あなととよくじゃれたソファを横切る。

あなたを愛した気持ちが転がって行く。




あなたを愛した時間は。

あたしを愛してくれたあなたの気持ちは。

確かにあったはずなのに。



どうせ涙を流すなら、あなたの前で流せば良かった。



果たされなかった約束も。

抱えきれないほど貰った思い出も。

すべてすべてすべて。

流してしまえば良かった。




あたしの気持ちはあなたに伝わっただろうか。

今も、心臓を締め付けるような強い想いだったと。

どんなに、どんなに愛していたか。

あなたといられてどんなに幸せだったか。


あたしの気持ちはあなたに伝わっただろうか。

口べただったあたし。

それを笑って許したあなた。

伝え切れていない気持ちがまだこんなにもあるのに。





ずっと。好きでした。

とても。好きでした。








今も。好きです。









少し多く話して。

あたしの気持ちをあなたに話して。

それから指輪を捨てよう。









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