「へぇ。結構キレイ好きなんだね」






                              この手を誰かの為に4







初めて訪れるとしても、あまりに分かりやすい建築物に笑ってしま
う。入口はないかと探していると、調度良い窓を見つけた。窓と言
ってもガラス製のものではなく、コンクリートの壁に四角い穴が空
いているもの。そこから、ふわりと中へ入る。 


「あ、アンパンマンっ?!な、なな何しに来た!」 


突然の来訪者に慌てるバイキンマン。座っていた椅子を誤って蹴っ
てしまい、その場にうずくまった。 


「大丈夫?」
「うるさいっ。…な、なんでここに…」
「きみと話してみたくって」


あの雨の日から、頻繁に街を襲うようになったバイキンマン。当然、
それを阻止しようと対立するのは正義の味方だ。対峙することはあ
っても、まともに話せることはまずない。


「あの日、言ってくれた言葉。僕なりに考えたんだけど、自分に都
合の良いようにしか捉えられなくって」
「…」
「確かめに来た」


そう言って、一歩相手に近づく。あまり見ない表情だった。頼りな
く笑う、正義の味方。三人揃えばリーダー役を買って出て、時には
カレーパンマンを諌める。その時々、表情は違えど必ず自信に満ち
ていた。 

「あの日の言葉…?」
「『自分が悪になるから、お前は正義の味方で在り続けろ』って僕
には聞こえたんだ」
「…」
「ねぇ、違うかな?」


宙に視線を泳がせていたバイキンマンは、目の前の彼が何を言いた
いか検討をつけた。


「オレ様がそうだと言えば、納得するのか」


ふふん、と鼻で笑いながら問いかける。本質は自分の中にあるのだ、
と。そう伝えるつもりで言った言葉は思わぬ反撃を食らう。


「納得はしないかもしれない。でも、安心は出来る」
「…」
「嘘でもいいんだ。きみの言葉だから、僕には価値がある」
「…っ」 


ふわりと笑うその顔から、バイキンマン思わず目を逸らした。柔ら
かく、きちんと瞳に光を宿した笑み。とんでもなく眩しいものを見
てしまったのではないかと思える程、バイキンマンは動揺していた。 


「さて、と」 


その様子を半ば楽しみながら見ていたアンバンマンは、嘆息する。 


「また、明日からよろしくね、バイキンマン」
「…そうだな」 


挑戦状を叩き付けたような強い口調に、バイキンマンは笑った。あ
の雨の日に出会った彼ではない。自分を対等と見、対峙出来る間柄。
これこそバイキンマンが望んでいたことだった。厚い雲は通り過ぎ、
雲間に青い空が覗く。少し風も出て来たようだ。その中を軽やかに
飛ぶアンパンマンは、誰もが望む彼だった。










「おかえりなさい」
「ただいまー」
「何だよ、機嫌良いな」
「そう?」


パン工場に戻ったアンパンマンは、二人に迎えられ笑みをこぼす。
出かける時とは違う表情に仲間は戸惑っている様子だ。


「あ。川の修繕、まだ進んでないみたいだからカレーパンマン、頼
めるかな?」


にっこりと笑み、拒否不能の言葉を投げかける。効果音でキラキラ
とつきそうな笑顔の直撃を受けた褐色の彼は、応としか言えなかっ
た。


「ショクパンマン、今度あの子のお迎えについて言ってもいい?」
「ええ、構いませんが、母親に何と言われるか分かりませんよ」
「うん。大丈夫。その時はフォローしてくれるでしょ?」
「…もちろん」


くるくると変わるアンパンマンの表情に二人はたじろいた。今まで
の彼とは違う。と、いうよりは、彼らしさを取り戻したような、そ
んな表情だ。生き生きとして見える彼に、二人は野暮な詮索はしな
かった。

   




終






*あとがき*
初アンパンマンです。
アンパンマンって難しい。でも楽しい。
私の脳内アンパンマンは大変なことになっていますが。
おいおい、他のキャラにもスポットを当てたいと思います。
ショクパンマンなんかすごく楽しそう。
1人だけ生まれが違うんですよ。
アンパンマンを書くにあたってwikiをいっぱい見ました。
色々書いてあるんですね。参考にします。うん。

ここまで見て頂いて、ありがとうございました。










ブラウザで閉じちゃって下さい
*気まぐれな猫*http://kimagure.sodenoshita.com/*