彼がマフィアのボスだとか、誰かの上に立っているとか、自分より
年が上だとか。今のディーノを見ているとどれも信じられない。 

モデル雑誌の表紙でも飾っていそうな顔立ちは情けなく歪み、おろ
おろと部屋を歩き回っている。もっとしゃんと立ちなよと声をかけ
たかったが、徒労に終わりそうだったのでやめた。   


「…」
「…」


控えめな空調の音が部屋に響く。ベッドには恭弥。彼らしくなく、
ぐったりと布団に沈んでいた。全校的に流行っていた風邪をうっか
り貰ってしまったのだ。相性が悪かったようで、症状は思いの外重
い。戦闘があっても滅多に弱らない恭弥を見て、ディーノはそわそ
わと落ち着かずにいた。  


「なんか飲み物、」
「いらないから動かないでくれる」 


部下がいないディーノは頼りないを通り過ぎて余計な仕事を増やす
大きな子供だ。小一時間前、そう言って台所に行った時は何がどう
なったか想像もしたくないくらいの物音がした。10分ほど待って、
ようやくミネラルウォーターを持って部屋に戻って来たのだ。 


「じゃあ体拭こうか、」
「水浸しのベッドで体は癒えないよ」
「う、悪ぃ」  


昨日同じように体を拭こうとした時は水の入った入れ物をベッドに
ぶちまけた。その結果、数時間居間のソファで寝る羽目になった。
本人に悪意がない分たちが悪く、恭弥はうまく断れずにずるずると
今に至っている。

いつもであればトンファの一撃で片付く話が、体調悪化のため解決
はもっと先になりそうだった。 


「…いいから。何もしなくて良いよ…」
「でも、」
「…あなたがいると調子が狂う」
「……悪ぃ」 


珍しく真剣にうなだれるディーノを見て、言葉がうまく伝わらなか
ったことに恭弥は気付いた。これが戦闘であれば、熱や頭痛など気
にならない。どんな猛毒であろうと、戦う邪魔になるなら気力で抑
え込んだ。普段の生活であっても、こうやって弱みを見せるなどし
たくない。恭弥は今までそうやって生きて来たのだ。 


「…あなたが僕をこうしたんだよ」
「オレはちゃんと服着て寝ろって言ったぜ?」
「……そうじゃない」 


言葉は本当に面倒だ。恭弥はそう思いながら、布団をかぶる。ディ
ーノに背を向けるように体を捻った。うまく伝わらない言葉はディ
ーノにため息をつかせた。彼はそのままベッドの脇にある椅子に座
ると恭弥の頭を撫でる。 


「…恭弥は怒るかもしれないけど、」
「?」
「こーゆー姿、見られるの嬉しいんだぜ?」
「…」 


俺だけだろ、と自惚れでも問いかけでもない確信に満ちた台詞に、
恭弥は押し黙るしかなかった。自分が言わんとしていることを知っ
ているだけでなく、それを受け入れていた。 


「…分かってるんじゃない」
「え、なに?」
「何でもないよ。眠るからそこにいなよ」
「…はいはい」 


背中越しに苦笑した気配が伝わる。こういったところは大人なんだ、
と恭弥は胸中で納得をした。ゆっくり、心地良いペースで頭を撫で
られ睡魔に襲われる。起きたらこの風邪も治っているだろうか。そ
う考えると、少しだけ寂しい気持ちになった。









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あゆあさんへ 9000hitリクエスト
「風邪をひいた雲雀をディーノが看病する」


まず、ヒバリが風邪をひくという特異な状態を想像するところから
始めました。きっと色っぽかったり、それに惑わされてくらくらする
ディーノさんとか面白いかなとも思ったんですが。
看病させる人って、選ぶよなぁと思いまして、そちらに焦点を当てました。
血へど吐いても、肋骨折れても、死にかけでも、きっと弱みとか
見せないと思うのですが、ディーノは特別だよね!

っと思って書きました。気に入って頂ければ幸いですv


なづき








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