「ちょっと、」
「なんだよ?」
「何、手、抜いてるの!」
「うぉっ?!」

文節ごとに繰り出される攻撃は色素の薄い髪を掠め、すぐ後ろのコ
ンクリを破壊する。パラパラと散った破片の上に、ディーノは尻餅
をついた。


「手を抜いて弱いのは許さない」


トンファを握り直し、座ったままの相手の前に恭弥は足を進める。


「ちょ、待てって!」
「何、」
「手、抜いてるわけじゃ」
「じゃあ、何?」
「う、それは…」
「やっぱりかみ殺す」


振りかぶり、思い切り下にトンファを振り下ろした。相変わらずの
破壊力で、先ほどまでディーノのいた場所には蜘蛛の巣状の破壊痕
が残る。
乾いていた土は、今の衝撃に土ぼこりとなり周りに舞った。恭弥は
その中から間一髪で逃げていた相手を見つけようと目を凝らすが、
一瞬遅かった。


「ちょっと休憩。な?」
「…」


背後からムチがトンファに絡まる。力ずくで解くことも出来たが、
恭弥は面倒になり力を抜いた。








                              もどかしい傷









「恭弥、この前の傷、大丈夫か」
「この前?…どれ?」


ディーノに負わされている傷は少なくない。もちろん逆もしかりだ
が。特定の傷を探し出すのは難しく、恭弥は首を傾げた。


「…ふっとんだ時に、木に引っ掛けただろ?」


なかなか思い出さない相手にディーノは言いにくそうに言葉を繋ぐ。
ジーンズについた砂を払いながら、その時の事を思い出しているの
か、随分情けない顔をしていた。その表情を数秒眺めたあと、ああ、
と恭弥は何戦か交えた時のことを思い出した。

勢い良く吹き飛ばされた先に、何かの拍子に折れてしまった木があ
った。乾燥して固くなっていた木の裂け目が、恭弥の肩に傷をつけ
た。ぱっくり裂けた傷からは、思いの外出血が酷く、それを見たデ
ィーノは当人よりも慌てていた。


「これのこと?」


恭弥はそれを思い出し、左肩を右手で掴む。その仕草にディーノは
ばつの悪そうな顔で頷いた。


「手負いだから手加減したの、」


この人ならやりかねない、と恭弥は嘆息する。リボーンの教え子は
マフィアの割に甘い部分が多い。目の前にいる人物も例に漏れない。


「…そーゆーわけじゃなくて…」
「怪我ならヤブ医者にも治せるみたいだし。気にせず戦ってよ」
「…」


なかなか理由を言い出さない相手に恭弥は苛立ち、構え直した。無
理やりにでも戦いに持っていこうと思ったが、ディーノの表情の変
化に再びトンファをしまう。


「何であなたが怒るの」


怒っているのはこちらなのに、と恭弥は胸中で付け足した。先ほど
までの情けない表情から打って変わって、少し睨み付けるような表
情をしている。答えを促すと、ゆっくりとディーノは口を開いた。


「…怪我したら、またシャマルのところに行くんだろ」
「…」
「オレ、それイヤなんだよ」


そこまで言い終わると、口を尖らせ拗ねた表情に変わる。恭弥を見
るのを躊躇っているのか、視線が宙を泳いだ。


「…それで?」
「あー!もー!」


結論までこのペースで問答していくのに耐えかねたのか、ディーノ
はがしがしと頭をかきながら叫ぶ。


「お前が、あいつに触られるのイヤなんだよ」
「なんだ、そうなの」


意を決した告白とも取れる言葉を恭弥はさらっと受け流した。その
反応に大きくため息をつくディーノに恭弥は近づいた。それまで一
定だった間合いが1歩狭まる。あまり経験のない至近距離に、ディ
ーノは高鳴り始める心臓をなんとか抑えていた。


「ボクがあなたに倒されなければいいわけだ」


にやりと笑みをこぼし、言い終わるが早いか、トンファを取り出し、
素早く振り上げる。ぎりぎりのところでそれをかわしたディーノは
よろよろと後ずさりした。


「そーゆー意味じゃ、」
「今度はあなたが看て貰えばいいよ」


泣きそうになりながらも恭弥の連撃を避ける。なかなか伝わらない
想いを胸に、ディーノは攻撃に応えた。










*あとがき*
まだまだ青い感じで。
雲雀さん相手に対等でいられるのはなかなかいないと思うんです。
だって雲雀さんだから。
戦闘の描写が難しくて、私にはそれがもどかしいです。








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