手ぐしを通すと、手の平にくすぐったい感触が残る。色素の薄い髪
は朝日によく透けていた。伏せられている睫毛は造り物のように長
い。すやすやと寝息をたてている様子からはとてもマフィアのボス
とは思えない。寝顔は幼く見えるということに恭弥はほくそ笑んだ。  







                              白雪姫







今日の修業の場所は密林だ。昨日の間にこの場所に移動し、夜明け
と共に戦闘を開始するはずだった。太陽は既に昇り始め、森の動物
は鳴き声を上げる。そんな中張ったテントに恭弥とディーノはいた。   
手遊びのように少し寝癖のついた髪を触る。ずっと眠ったままなら
良いのに。目を覚ませば、指輪だのポンゴレなどと話し始める。今
のこの時間は間違いなく自分だけのものだ。恭弥はぼんやりとそん
なことを考えていた。   


「…もう起きてるよ」
「なんだ。意地が悪いんだね」


伏せられていた瞳が薄く開く。さらさらと流れる前髪越しに目があ
った。目を覚ますタイミングを計っていたらしい。  


「見てないで起こしてくれよ」
「寝顔可愛かったよ」
「あのなぁ、」 


噛み合わない会話は今に始まったことではない。ディーノは体を横
にしたまま恭弥を見る。既に身支度を整えて、テントの中で寝てい
るディーノを見に来たのだ。 


「いい加減、指輪の話聞いてくれ」
「だから興味がないって言ってるでしょ」
「そろそろ時間ねぇんだけどな…」 


大きくため息をつきながら、ディーノは体を起こす。寝心地が良い
とは言えない寝床から起きた体は少しばかり固い。腕や背中を伸ば
しながら、ゆっくりと立ち、テントの外に出た。 


「白雪姫みたい」
「へ?」


一連の動作を眺めていた恭弥がぽつりともらす。突拍子もない発言
には慣れたかと思っていたディーノだったが、これには間の抜けた
返事しか出来ない。 


「脚色されてない方のだよ」
「オレがプリンセスなのか?」
「そう」 


まさか、という接頭語がよく合う言い方で聞き返すが、さも当然の
ように言われる返答。がくりと肩を落とし、ディーノはうなだれた。  

死人しか愛せなかった王子は綺麗な棺に入れられた姫に恋をする。
林檎のかけらが取れ、生き返った姫に王子は興味を示さなくなった。  


「眠ったままのあなたの方が好きだよ」
「なんだそりゃ」 


物言わぬ眠り人。その人になら傷つけず、大切に出来る気がした。
恭弥は特に補足もせず、トンファを握る。いつか起きてるあなたに
同じことが思えたなら。祈りに近い想いを掻き消すように、恭弥は
トンファを振り下ろした。













*あとがき*
死にネタではありません。念の為。
二人とも美人だけど、やっぱりディーノの方が美人だと思うんだ。
イタリア人はマジで美人。







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