「恭弥、」
「なに」
「キスしていい?」







                              犬と猫








目の前の男はいつもに増して真剣な眼差しだ。鳶色の瞳が、外から
差し込む光を取り込んできらきらと輝いている。


「いやだ」
「えー」


質問されたので答えたのに不服なようだ。整った顔を歪めて、口を
尖らせている。忠実な犬のように一定の距離を保ったままだ。応接
室の机は思いの他大きい。向かいのソファに座っている為、その距
離は遠い。


(犬みたいだ)


不満の表情を残しつつ、ポケットから出した飴を頬張る。好きな味
だったようで瞳の輝きが増した。くるくる表情を見ていると、学校
に来る途中にいる犬を思い出す。人が通れば近寄り、何か貰えれば
尾を振り、嬉しさを表現する。

毎日のように歩く通学路。エサをやることなど、まずない。しかし、
数日前その機会を持った。山本に旅行土産だ、と半ば無理矢理渡さ
れたクッキー。
しつこく勧めるものだから断るのも面倒でその時はエサを持ってい
たのだ。渡したクッキーをおいしそうに食べる犬。突然の食べ物に
嬉しさを隠せないようだった。ちぎれんばかりに尾を振っている。

弱いものであれば興味を持たないのに、覚えているのは目の前の犬
のような男のせいだ。


「ねぇ」
「え」


ソファから立ち上がる時に、革の擦れる独特な音がする。それを聞
きながら、机の上にひざを立て、体を乗り出した。驚いて見開かれ
る瞳は、接触する瞬間に閉じられる。人形のようなまつげのピント
が合わない。

重ねた唇が笑みを堪えるように強張り始めたので少し離れた。しか
し、すぐに抱き寄せられ、思うように行かない。


「めずらしーもん貰った」


ぎゅうぎゅう抱きしめる体にしっぽが見える…気がする。大型犬だ。
そんなことを考えていると、腕を拘束するように回されていた手が
肩から腰辺りまで下りていく。片方の手でこちらの髪を掻きあげる
ように撫でる。


「恭弥…」


声に熱がこもる。次の瞬間に放たれたトンファの一撃で、ディーノ
はソファに沈んだ。


「さかりすぎ」
「さっ?!ひでぇ!」


一撃をくらって赤くなったあごを摩りながら、ディーノは涙目で抗
議する。


「たちの悪い犬だね」
「だったら恭弥は猫だな」
「猫?」
「近づくと離れるのに、ほっとくと近寄ってくる。
「そんなの知らないよ」


先ほどのやり取りを指して笑うディーノに抱えられながら、猫に例
えられるのも悪くないと思った。好きな時に好きな所へ行く。そん
な行動をするその動物を嫌いではない。それらを笑って許すディー
ノの横は、案外心地が良いのだ。









*あとがき*
ヒバリさんは豹とかでも良いですよね!
すごくしなやかな動きをしそうです。
ディーノは犬。ゴールデンレトリバーな感じです。
ラブラドールでも良いですが。
とにかく大型犬で。ものすごく、つやつやした毛並み希望。











ブラウザで閉じちゃって下さい
*気まぐれな猫*http://kimagure.sodenoshita.com/*