目の前に、10年後のディーノが現れた。バズーカから発せられたで
あろう煙に手を振りながら咳き込んでいる。目尻に涙を滲ませながら、
鳶色の瞳をこちらに向けた。


「恭弥、」
「…」


笑い方が、自分の知っている彼とあまりにも変わらないものだから、
思わず呆気に取られた。








                               10年後の跳ね馬








「10年前って、お前ちいせぇな」


一歩近づいて、ディーノは笑った。仕事の途中だったのか、普段見慣
れないスーツ姿。10年の歳月は、ファミリーのボスという貫録をつ
けるのに十分な時間だったようだ。恭弥は、対峙して分かる威圧感を、
数分前の彼と比べていた。


「あなたは変わらないね」
「成長期と一緒にすんなよ」


向ける視線の高さはさほど変わらない。10年後の自分はかなり身長
が伸びているのかもしれない。痛いところをつかれた、と言わんばか
りのディーノの表情からそう汲み取る。


「それで、強くなったの?」
「やっぱそーなんのか」


自分と良い勝負が出来る相手はそうそういない。どれくらい出来るの
か試したくて、恭弥はうずうずしていた。指先がぴくりと動く。筋肉
が戦闘態勢に入り始めていた。


「!」
「5分しかねーんだ。落ち着こうぜ」


トンファを出す前に腕を捕まえられる。僅かな初動を見逃さなかった
ようだ。空いた手で恭弥の頭を撫でると、ディーノはソファに腰掛け
た。現代の彼がそうするように、応接室のソファの端は彼の定位置で
もある。


「気に入らない」
「は、」
「そーゆーあなたは気に入らない」


一度は捕まえられたものの、すぐに放された手でトンファを握り、デ
ィーノに向かって振った。もっと慌てて、表情を出すところが面白い
のに。今のディーノはやたら落ち着いて、こちらの動かし方を分かっ
ているようだった。相手だけ知っていて、自分が知らないことに腹が
立った。


「っと、」


恭弥の心中をよそに、ディーノはトンファを軽く受け止める。受け止
めた後、それを握り自分の方へ引っ張った。重心を取られた恭弥は、
そのまま相手の方へ体を傾ける。


「そのうち、こーゆーのが気に入るように、」


引きよせた体を抱きとめ、ディーノは耳元で囁いた。知っている声よ
り、若干低い。胸や腕回りも、知っているそれより鍛えられているこ
とが容易に分かった。


「お前がなるんだよ」


囁きながら、耳元にキスを落とす。分かりやすいように、ちゅ、とわ
ざと音を立てる。恭弥は、言葉にも行動にも我慢がならなく、再びト
ンファを振り上げた。しかし、それは呆気なく空振りする。


「うえっ、げほ、げほっ」
「…」


5分経ったのか、と目の前に現れた見慣れた男を見ながら恭弥は嘆息
する。思いきり煙を吸い込んだようで、目のふちに涙を溜めながらせ
き込んでいる。煙の合間から、恭弥を見つけ、安心したのか笑いかけ
た。


「きょー、」


空振りしていたトンファを切り返し、棒の先で顔面を打ちに行く。笑
顔は引きつり、間一髪でディーノはそれをよけた。


「な、なにすんだよ!」


慌てて2、3歩後ずさり、恭弥との距離を取る。次にいつ攻撃が来て
も良いように、かかとを浮かせ、腰を落とした。向けられる視線は冷
たい。経験上、それは恭弥が不機嫌な時だとは分かったが、原因がつ
かめないまま、追撃を避けた。


「うるさいな。大人しくしてなよ」
「ちょ、ちょ、オレが何したんだよっ」


避けることに専念したディーノを捉えるのは難しい。当たらない攻撃
にイラつきながら、恭弥は理不尽な言葉を放つ。応接室にあるソファ
や机を盾にするわけにもいかなく、ディーノは狭い空間を必死に駆け
回った。


「10年後に分かるんじゃない?」


速度の増した攻撃は、追い詰められたディーノをついに捉える。ごっ、
と鈍い音をたて、ディーノは床に伏した。













*あとがき*
10年後のディーノさんが美人すぎて。
思わず会いたくなって、書いてしまいました。
32歳のディーノさんなんて、エロすぎる。
そのエロさで、ヒバリさんを襲って下さい。(え









ブラウザで閉じちゃって下さい
*気まぐれな猫*http://kimagure.sodenoshita.com/*