どうしたって、お前はこの世界に来ちまうだろ。

だったら、目の届く所に置いておきたかったんだ。








                              Ti Amo









並盛中の近くにマンションを借りた。日本の間取りは狭い。大家を
説得し、壁をぶち抜いた。ツナたちにこの話をした時、少し引いて
いた。

広いダイニングに小さめのキッチン。寝室にベッドを入れるのは苦
労した。…ようだった。ほとんどロマーリオたちがセッティングし
てくれたのだ。最初は一人でやるつもりだったが、ロマーリオを筆
頭に続々と部下が手伝いに来た。散歩の途中だ、冷やかしだ、ホー
ムシックにならないか見に来てやった、など軽口を叩く連中ばかり
だ。多すぎる部下を数名帰し、引き続き引っ越し作業をしていると、


「ボス、日本じゃヒッコシソバを食べるそうだ。買って来てくれ」


ボスとして扱われているか疑問に思いながらも買いに行き、戻った
ころにはすべてが終了していた。玄関には靴を脱ぐ場所があったが、
皆気にしていなかった。フローリングは新築にもかかわらずくすん
でいる。部下が帰った後に、しっかりと掃除をした。…大変だった。

リビングには白いソファを置く。なかなか座り心地が良いのだが。


「…」


そのソファを使って寝息を立てている黒髪の少年。先日買ったばか
りのクッションをまくらに熟睡していた。珍しい。呼吸の度に上下
する体が無性に愛しく見えた。抱きついて起こすわけにも行かなく、
ソファの傍らに座り、間近で恭弥の顔を覗いた。整った顔立ちだと
見惚れていると、何の前触れもなくまぶたが持ち上がる。


「ぅおっ」
「…何、見てるの」


驚きすぎて、すぐ後ろにあったテーブルの脚にひじを打ちつけた。
特有のしびれた感覚をどうにかしようと腕を振る。その間に恭弥は
上体を起こしていた。まだ眠いのか大きく欠伸をする。目の縁に溜
まった涙は、ぱちぱちと瞬きをすると睫毛を濡らした。濡れた睫毛
は束になり、瞳を強調させる。その様子を一時たりとも見逃さない
ように見ていた為、さすがに耐えられなくなったのか、恭弥は顔を
そむけた。


「変だね、いつもに増して」
「んー、幸せだなって」


空いたソファのスペースに座り、ディーノは笑う。イタリアに帰れ
ば残した仕事が待っている。書類の整理も、血生臭いことも、今、
恭弥を撫でているこの手で行うのだ。


「…死ぬの、」
「おまっ、怖いこと言うなよ」


幸せを噛みしめていたディーノの眉が下がる。恭弥は冗談の類を言
わないので、真剣に言われたであろう言葉にディーノは軽くへこん
だ。うなだれていると、眼前に自分の髪が垂れる。のれんのように、
その隙間から恭弥を盗み見た。


「オレが死んだら泣いてくれるか?」
「…」


押し黙る相手に、望んだ答えは得られないか、とディーノは嘆息す
る。それもそうだ。愛だの恋だのめったに口にしなく、俗に言う恋
人関係になった今でもその感情を持っているか不明だ。


「あなたが殺される相手なら楽しめそうだね」


本当にバトルマニアなのだ。そのことを失念していたディーノは、
今度こそ本格的にへこむ。仮想敵を思い描いているのか、視線は合
わない。口元には笑みが浮かんでいる。正直、怖いと思う。


「探し出して、噛み殺してあげる」
「え、」


向けられた言葉の先が自分だったので、焦る。この部屋には今二人
しかいないのだから当然と言えば当然なのだが。遠回しにしろ、欲
しかった言葉に近くて聞きなおした。しかし、もう言わないよ、と
付け足され、同じ言葉は聞けない。傍目にも分かるほどそわそわと
しながら、ディーノは告白するように間を置いた。


「じゃ、もしお前が、」
「僕はそんなへまはしないよ」
「なんだよ、言わせろよー」


しかし、間髪入れずに入った言葉に再びうなだれた。

もしも誰かに殺されたなら、必ず仇を取ってあげる。

これほど、愛の告白に似た台詞があるだろうか。この世界で生きて
行く上で、命の保証はまず出来ない。もしもの話がいつか本当にな
ったとしても、悔いないように抱きしめる。


「本当に、変だよ」


腕の中ではてなを浮かべつつ、抵抗を見せないのは恭弥の変化だっ
た。以前であればすかさず反撃が来るところだ。この先の変化を楽
しみにしつつ、ディーノは黒髪の少年にキスを降らせた。












*あとがき*
そういえば、この二人を恋人同士にしていない、と思って。
ディノヒバメインなのに。
ti amoと言わせたいけれど。なんか恥ずかしいですよね。
でも、ディノは真顔で言っちゃうと思うんだ。
恥ずかしい奴だな!








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