ひとびとの
悲しいおもいが
昇天して虹になる
悲しみが美しく
天を飾るのだ
天を飾るのだ

あるとき僕は
それを知ったのだ
僕の悲しみに
虹が呼びかけたのだ
早くおいで ここへと



(自分が泣くと雨が降る それが昔から不思議だった)











                              Arcobaleno                    











ジョットは不思議な男だった。

幼馴染とはよく言ったものだ。彼の言動についていけるのは俺ぐら
いだろう。弱い者を見捨てられず、強い者に立ち向かう。彼のこと
を知らない者はこの街にはいない。それだけの実力を持ちながら、
権力に縋ることはなかった。望めばそれ相応の待遇が受けられたに
違いない。

けれど彼は相変わらず俺の目の前で拾ってきた猫とじゃれている。
太陽の光が透けて、髪が金糸のように光る。そこまで強い光ではな
いのに、彼自身が発光しているように目に映った。この世のもので
はないような錯覚を起こす。瞬き1つ1つが決められた台本の中の
出来事のように完璧だ。

楽しそうに細められる瞳に、髪の毛の影が落ちた。その様子を見て
いると、どうした、と聞かれる。随分長い間ジョットを凝視してい
たらしい。


「…そんなに遊んでて飽きねぇの」
「なんだ、G。寂しいのか」
「ばっ、んなこと言ってねぇだろ」


それは同時に彼がずっと猫と戯れていた時間だ。自分に動物を愛で
る趣味はない。ジョットは捨て置かれた生き物を拾ってくる。猫で
だったりで犬だったり鳥であったり様々だ。それは地元のイタリア
に留まらず諸国を放浪している時でさえそうだった。ジャッポーネ
という異国の地で人間を拾って来た時は、さすがに俺も驚いた。

拾い物が多いジョットの部屋には、常に2、3匹の動物がいる。そ
う、常に、だ。それ以上にもそれ以下にもなった処を見たことがな
い。つまりは、常に拾われている者もいればここから姿を消した者
がいるということだ。その事に気付いてはいたが言及したことは一
度もない。

その日、家の裏に小さな墓が増えた。

猫は自分が弱ると死に際を見せないように姿を眩ませるという。し
かし、ジョットの手にいる猫は間も無く息を引き取る。死に際を彼
に求めているのだ。彼の何が引き寄せるのかは分からない。ただ、
動物は彼を求めた。


「…そろそろ中に入れよ」
「ああ、先に休んでてくれ」


貧困に苦しむ人間が増え、大きな墓が増えるようになった。ジョッ
トは身寄りのない人間を丁寧に葬った。その度に涙を一粒だけ零し
た。そして、それは天候に反映されていた。

小さな頃からそれは変わらない。大人たちに言っても信じてもらえ
なかった。自分でさえも未だに信じられない。しかし、雨のないと
ころで彼が泣いているのは見たことがなかった。大粒の雨が、彼に
降り続ける。弾かれた雫が再び地に落ちた。

自分には何も出来ない。どうやったら支えてやれるのか分からない。
猫や犬は自分の最期を看取ってもらう代わりに、彼に暖かさを与え
ていたのかもしれない。死にゆく前の温かみを、彼はいつも微笑ん
で受け入れていたのだから。ならば自分は彼に何を与えることが出
来るのだろうか。どうすれば彼は微笑んでくれるのだろうか。

雨が上がり、日が差した。
上空で霧状になった水分が乱反射をし、色鮮やかな自然現象を見せ
る。ジョットはそれを静かに見つめていた。そしてある時、虹を見
つめていたその瞳がこちらを見る。彼の後ろには、彼を囲うように
半円の虹が広がり、後光のように存在していた。


「一緒に自警団をやらないか」


無秩序な街を自分たちの力で救おうと彼は言った。どうか、と聞く
調子だったはずが俺にはやるだろう、という確認にしか聞こえない。
ジョットの表情は相変わらず変わらない。こんな時くらい笑ったら
どうかと思う。


「俺がいねーと寂しいのはテメーだろ」


いつかの言葉尻を真似て返事をした。幼馴染だから、というには理
由が弱い。俺も彼に惹かれているのだろうか。あの動物たちと同じ
ように、何かを求めているのだろうか。


「ありがとう」


ジョットが微笑んだ。
ああ、彼に惹かれているのなんてずっと昔からのことだった。これ
からも傍にいればいい。彼が必要だと言えば近くにいればいいのだ。
それだけで助けになるのならいつまでだって一緒にいてやる。

自警団を立ち上げ、街を守る立場になった。それは彼を守ることと
同義だった。ジョットは、その日を境に泣くことはなくなった。






だがまたあるとき
僕の悲しみは
天へ昇るまえに
僕の心のなかで
早くも虹になっていた

ひとびとの
悲しいおもいが
昇天して虹になる
悲しみが美しく
天を飾るのだ
天を飾るのだ
高見順『虹』





(Gが隣にいると心が温かい それが昔から不思議だった)















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ザ・NE THU ZO U ☆
ちょっと、初代編が楽しみすぎて書いてしまいました。
彼らの立ち位置は未だに不明ですが。
なんか、根っこの方で信頼しているような2人が希望。
Gが押し倒すのか。ジョットが説き伏せるのか。
どっちもおいしいですね(腐














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