軟弱で、女のようだ。 

それが恭弥に持った最初の感想だ。着物から出る手は、日の光を知
らないとでも言うように白く、細かった。その手が自分の腕を絡め
とり、無理な方向にねじ曲がらせようとしたところで、見とれてい
たことに気がついた。 

強く、美しい。
ばたりと畳に打ちつけた頭で、哲は彼に対しての認識を改めた。そ
して、それは彼の外見だけでなく中身を伴うことだと知れる。自分
が継ぐことの決まっている店にいるよりも、彼の下で働きたいと思
った。  









                                                            の春










「家に手紙かい?」
「いえ、…そうです」
「…大丈夫なの」
「は、」
「僕もその程度の心配はするよ」 


僕をなんだと思ってるの、と恭弥は笑む。彼が表情を見せる数少な
い瞬間だ。いや、表情がないというわけではない。ただ、分かり易
い表情がないと言うだけ。僅かな筋肉の動きが読み取れる自分を、
哲は誇らしく思っていた。 


「恭さんは、なぜこの地を守ろうとされているのですか」 


以前から疑問に思っていたことだった。なぜこの長崎という港町に
こだわるのか。遊女に身をやつしてまで、いかなる理由があるのか。
明日を初店開けに控え、哲は遠慮がちに訊いた。 


「この土地が好きなんだ」
「…」
「…それだけだよ」 


言葉の続きを待っている哲に、恭弥は台帳をめくりながら付け足し
た。彼らしいと言えば彼らしいが、あまりにも単純すぎて呆気に取
られる。その答えは自分の期待以上でも以下でもなく、納得のいく
ものだった。 

自分の好きなものが他人の手で好き勝手されるのは許せない。哲も
また、この地を愛していた。故に、恭弥と行動を共にしたのだ。  


「哲さん、何かいーことでもあった?」
「…いえ、別に」
「そ?思い出し笑いなんて珍しいのな」
「…」 


にっこりと白い歯を見せ笑う武に言葉が出ない。それ程、表情が緩
んでいたのかと片手で口元を覆った。昔といっても、本当につい最
近のことなのだ。しかし、自分の彼に対する敬愛の念は時間では到
底表せない。哲は気を引き締めて、障子を開ける。 


「恭さん、おはようございます」 


微睡んでいる主に頭を垂れ、店開けに備えた。














*あとがき*
実は良いところの坊ちゃんとかだと萌えます。
で、全部捨てて恭弥のところに来ちゃうんですよ。
でも馬の骨多いから大変ですよね!って話。(?)








ブラウザで閉じちゃって下さい
*気まぐれな猫*http://kimagure.sodenoshita.com/*