ロイドのことが心配だった。
なんで何も話してくれないのか、とか。
聞きたいことはたくさんあった。
答えの代わりに剣が向けられた。


「ロイド…」


ボクの声は届かなかった。
頭を過ぎったのは赤い色。
余計なことまで思い出した。






                                                    紅






「なんだ、起きてたのか」


いつの間にかふかふかのベッドの上だった。見覚えのある天井。テ
セアラ式の高級仕様。ゆっくり視線を横にやると、更に見覚えのあ
る顔があった。


「いつまで掴んでんだよ」


"赤い"髪の男、ゼロスが笑いながら話しかける。ジーニアスの手
は無意識にゼロスの手を掴んでいたようだった。それに気づき、慌
てて手を離す。


「…ゼロス…?」
「…寝ぼけてんなー。昨日、オレ様の家に来たことは覚えてるか?」
「…」


ジーニアスは記憶を探った。
自分の姉、リフィルと一緒にロイドの情報を掴む為、一端メルトキ
オに行くことにしたのだ。ついでに顔なじみの仲間に会いに来た。
出迎えてくれた赤い髪を見て、そこから意識を失くしている。


「ボク、もしかして倒れたの?」
「そ。ビーックリしたぜ?来て早々、ぶっ倒れるんだからよ。…ま、
 過労だろうーなぁ」
「…カッコ悪い」


ジーニアスは大きくため息をついた。彼の前で見せたくない失態だ
った。2年ぶりに再会したというのに、成長した姿を見せるどころ
か、やっかいをかけてしまっている。


「あれ、姉さんは?」


先ほどから見当たらない、一緒にいたはずの人物を探す。この部屋
にはいないのか、気配もしない。


「マーテル教会に行ってる。各地からの情報を聞くんだと」
「それじゃ、ボクも…」
「待った」

行き先を告げられ、すぐにでも出発しそうなジーニアスをゼロスは
間髪いれずに止めた。起きようとした体をそのままベッドに押し戻
す。手首を掴み、半ば覆いかぶさる形で動きを封じた。


「せぇーっかく久しぶりに会えたのに、全部おあずけかぁ?」
「なっ…」


状況と台詞の意味を理解するやいなや、ジーニアスは顔を真っ赤に
させた。抗ってみても、うまく力が入らない。


「ちょっ…!」
「しー」



緑色の瞳が近づき、静かに唇が重ねられた。
久しぶりの感触に涙が出そうになる。




ロイドを探し始めてからの旅は、過去の足跡を踏みなおすようなことだった。
思い返された。
自分がハーフエルフだということに。
一緒に旅をした仲間が特殊な人間だということ。
もちろん中には気にせずに対応してくれた人間や、対応しようとした人間もいた。

だが、目の前の人間ほど近くにはいてくれなかった。


薄く開けた視界に赤い髪が映る。
目の前の人間も、唯一の親友であるロイドも、自分にとって大切な人間に変わりない。
ゼロスが以前と変わらない分、向けられた剣を思い出し、悲しくなった。



「大丈夫だって」
「…?」
「ロイドのことはオレがなんとかしてやるよ」
「!」


低く囁かれた声が心臓まで響いた。
何も話していないのに。話していないからこそ分かるのかもしれない。
堪えたはずの涙が頬を伝って枕に落ちる。


「ロイドがっ…」
「うん」
「何も、話してくれなくて、」
「うん」


今までのことをゆっくりと話始めた。
神殿で会ったロイドのこと。
エミルという少年から聞いたロイドのこと。
何も話してくれないという現状のこと。
ゼロスに会い、安心したということ。

酷く稚拙な言い方だった。
それをゼロスは落ち着くまで聞いていた。


「…ありがと、ゼロス」
「いえいえ、どーいたしまして」
「…」
「久しぶりに泣き顔見れたし」
「!」


抑えていた腕が離れ、部屋の入り口までゼロスは走っていく。
それをヨロヨロとしながらジーニアスは追いかけた。

目の前を走る赤い髪を見ても、悪い夢は見そうにない。
その感覚にジーニアスは笑った。















*あとがき*
この二人は大好きです。
ゼロスはからかいながらも翻弄されればいいです。
ジーニアスはいつも一生懸命だったら良いです。
そんな二人をみんなは見守っていれば良いと思います。













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