斧を振った。
力の限り振った。
遠心力で自分の重心が持っていかれそうになりながら振った。
握力がなくなるまで振った。
酸素がなくなるまで振った。
もう何回目か分からなくなるまで振った。
涙で前が見えなくなっても振った。


振り続けて、倒れた。









                              ローリングスター







   

「…」 

月が随分低い位置にある。
もう数時間で夜明けだろう。カロルは体中の力が抜けるのを感じな
がら夜空を見上げた。体はどちらかというと、地面に張り付いてい
るようだった。接してる部分を浮かせることが出来ない。

星の一部になって空を覗いているようだった。ダングレストの結界
の光の輪と夜空の星が目に映る。視界いっぱいに広がるそれらを見
ていると上下の感覚がなくなる。

そのまま光の中に落ちていけそうだった。  

世界を救ったその後。変化があるのは当然だ。一緒にいた仲間は別
々の道へ行く。ギルドを立ち上げた自分は否が応なくギルドに関わ
り続けた。そしてそこには彼も一緒にいた。ずっと前からの想い人。
気持ちは伝えられずにいた。   

このまま一緒にいられるなら言おう。
ギルドを立ち上げたら言おう。
ナンやボスたちとしっかり話をしてから言おう。
エステルを救い出してから言おう。
世界を救ってから言おう。

そのころには今の関係を崩してでも言おうという気は失せていた。

それでも時折、叫びたい衝動にかられる。伝えたい衝動にかられる。
その度に斧を振って発散していた。

体が疲弊すれば思考に回す酸素はなくなる。前進も後退もしていな
いが、カロルにとって今の状態を保つ唯一の方法だった。


「相変わらず頑張ってんな」
「…、ユーリ」
「けど、こんなとこで寝てたらダメだろ」


呆れながら、それでも案じてくれている様子が分かる。ユーリの笑
みは雄弁だ。カロルは見上げたまま答えた。星の中に、空の中にユ
ーリが溶け込んでいるようで不思議な光景だった。夢か現実か一瞬
分からなくなる。

その、一瞬だった。


「好きなんだ」


空を見ていた。星が瞬いていた。夜空にユーリの黒髪が溶けていた。
近くにいた。笑いかけてくれていた。ただそれだけだったのに。カ
ロルの口から、今まで溜めていた言葉がするりと抜け出た。


「ユーリを、好きなんだ」


笑って誤魔化せる余裕は無かった。逃げ場も無くす。言葉にしてカ
ロルは初めて気がついた。自分はどんな形であれ、前進したかった
のだ。

告白を聞いて、ユーリはしばらく無言だった。時間が流れる。遠く
から聞こえる酒場の喧騒がなければ気がおかしくなってしまいそう
だった。敵と対峙する時に感じる時間のようだった。恐ろしく長く、
相手の行動、瞬きの一つさえ怖い。


「…そっか。ありがとな」


驚くほどいつもと同じ言葉だった。先ほどの自分の言葉をきちんと
聞いていたのかと疑うほどだ。それでも今感じていた時間は事実な
ので、ユーリがそれだけ考えていたということは変わらない。


「オレが泣いて縋るぐらいの男になれよ」
「……え、」
「じゃあな」
「え、え??ユーリ、あの…ぉわっ」


応とも否ともとれないユーリの態度。慌てて起きようとするが、蓄
積された疲労がカロルの足をおぼつかせた。受け身を取る力もない
状態で倒れれば石畳の地面が待っている。衝撃に目を瞑ったが、代
わりに体に触れたのは力強い腕だった。


「、りがと」
「ん」
「…やっぱりユーリは恰好良いね」
「そーゆーことをストレートに言えるお前もすごいよ」


腕の中に抱きとめられながら、カロルは複雑な思いだ。自分が好き
なこの人物が憧れるような自分にならなくてはいけない。どのくら
い時間がかかるのだろうか。それでも、昨日までの自分より確実に
前進出来ている気がして嬉しかった。

月が沈みかけていた。
もうじき日が昇る。
それがたまらなく待ち遠しかった。


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年下がブームです(え
カロルは絶対良い男になると思うんです。
でも、いつも悲恋で書いていたのでたまには
望みがありそうな形で終わってみようと挑戦。
…この二人、どうなっちゃうんですかね!


























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