キラキラキラキラ。
自分にはない、彼らの空気が眩しかった。







                                                            星、過去。未来





    


「レイヴンさん」
「ん〜?」
「単刀直入にお訊きします。ユーリを好きなんですか」  


オルニオンの見張り台。レイヴンは食べていたおにぎりを喉に詰ま
らせた。簡単には死なない体だが、窒息死くらいならしそうだとせ
き込みながら考える。 

眠れなかったのでいつもならすることのない徘徊をしていると、勤
勉な見回り騎士に捕まったのだ。

手をついた見張り台の木がぎしりと鳴る。男2人を乗せたくらいで
はどうにもならないだろうが、静まり返った夜に鳴る音は不安にな
るくらい周りに響く。  


「…えーと、なんでそう思うか聞いてもいい?」
「勘です」
「あ、そう」  


フレンは目を逸らさずに答えた。2つの碧眼がレイヴンの姿を捉え
たまま動かない。数度瞬くと、睫毛に触れた髪が僅かに揺れた。  


「君はユーリくんのことを好きなのかい?」
「…分かりません」  


視線が宙に何かを探すようにゆっくりと動く。先ほどまではきはき
と動いていた唇が、何かを言いかけては閉じた。正しい答えを模索
しているようだった。 

(正しい答えなんてないんだよ) 

レイヴンは胸中で呟いた。言葉には出さない。これは言ったところ
で理解出来ないのを知っているからだ。自分がその結論に至らなけ
れば納得も出来ない。 

普段、彼らと接していると一回りも離れているとは意識しにくい。
しかし、思いもよらぬところで自分が余分に生きて多少の知恵があ
ることに気づかされる。  


「そーねぇ。おっさんは好きよ」
「!…そう、なんですか」
「そう思ったから訊いたんでしょ?」  


言葉にしたら少しだけ心が震えた。レイヴンとして生きるのを決め
た時に似ている。彼らと同じ世界に生きることを覚悟した時と同じ
だ。  

フレンは若干乗り出していた体を戻し、珍しく背中を丸める。考え
を巡らせているようだった。 


「…あなたに本気を出されたら僕はきっと勝てません」
「ははは、そのまま返すわ」
「あなたは僕らの憧れなんです」  


こういった真っ直ぐな彼らの目は苦手だ。シュヴァーンの部下たち
も、迷うことなく上官を見ていた。憧れている、正しいと信じてい
る、そんな彼らの視線は自分を肯定していくのだ。表と裏の顔があ
るとも知らずに。とうに死んだと思っていた心が僅かに軋んだ。  


「…ユーリが騎士団に在籍していた時、」 


懐かしい時期の話を出され、レイヴンはふと我に返る。騎士団にシュ
ヴァーンとしていた時、何度か噂を耳にした。礼儀も何も出来てい
ない新入りが来た、と。下町出身というだけで、その噂は悪い方向
に尾ひれがつく。平民上がりの自分の隊に配属されるかもしれない
と、ぼんやり考えていた。 


「シュヴァーン隊長が影から手助けされていたのを知っています」
「…あれは手助けなんて大層なもんじゃない」
「やはり事実なんですね」
「おぉ?カマ掛けたのか。やるねぇ」 


笑うと冷たい空気が肺に入りむせそうになった。悪い噂も同僚の指
導という名の虐めもそれとなく解消していた。ユーリ本人がさして
気にしていなかったので、特に必要ではなかったかもしれない。自
分の信念を曲げないのは昔から変わっていなかった。

その姿を見て惹かれたのだ。  


「僕には何をおいても彼を譲ることは出来ません」
「そうかい」
「…それを伝えに来ました」
「…」
「お時間を取らせて申し訳ありません。失礼します」


堅苦しく挨拶をするとフレンは見張り台のハシゴを降りて行った。
その振動を僅かに感じながらレイヴンは空を見上げた。以前のフレ
ンであればわざわざ話に来るようなことはしなかったはずだ。それ
が、迷いながらもその状態を知らせに来た。これもユーリの影響だ
ろうか。

寒空の星が綺麗に瞬く。キラキラキラキラ。
いつの間にか彼らと同じ舞台に立っている。眩しく、近寄ることも
出来ないと思っていた舞台。 

(死ぬは易し生きるは難しってことかね)  

残りのおにぎりをほおばると、レイヴンは睡眠を求めて宿屋に戻っ
た。








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ユーリの噂が流れないはずがない。
その噂をシュヴァーンが知らないはずがない。
その様子をフレンが知らないはずがない。
ユーリを巡って牽制し合う二人とか。
たぎりますね!
お互いに譲れないものがあると素敵。










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