「みかみ、延滞」
「は?」
「延滞だよ。レンタル期間過ぎてる」
「はぁ?」






                              三上来店







「延滞期間は二日ですので、500円延滞料お願い致します」
「…っち」

少額とはいえ、思わぬ出費に舌打ちする三上。せめて一日だったな
ら。フジシロが言うのが遅いせいだ、目つきが悪くなる。それを目
の当たりにしても、別に悪びれも見せないフジシロは勝手に檻に戻
っていた。

「お客様?」
「……領収書切ってくれるか」
「分かりました。名義は渋沢様で?」
「ああ」

物わかりの良い金髪の店員は、背後にいる妙に背の高い茶髪に手順
を見せながらことを運んでいく。新しく入ったバイトか何かだろう
か。

「何か見て行かはりますか?」
「…じゃ、見るだけ…」

暇だし、と胸中で付け足して、三上は店内を見回した。外から店内
奥に向けて順番に檻が並んでいて、順番に人気なのだと見て取れる。
ウインドウから差し込む日差しに髪が透けてふわふわしているツバ
サ。眠そうに客というこちらの存在に気付かずにうつらうつらとし
ている。

「…」

ふと見ると、時折ぴくりと動くしっぽが檻から少しはみ出している。
ちょっとした悪戯心というか。三上をそれをひっぱった。

「…っ?!…にゃ…何…?」

夢見心地のところへの突然の刺激。目がぱっちりと覚めたツバサは、
目の前でこちらをじっと見ている知らない顔に驚いた。こないだバ
イトは入ったばかりだし、黄色いエプロンも着ていない。というこ
とは単純に客だ。

客からの「お触り」みたいなものはよくあることである。しかし、
あまりそれに慣れないツバサはとりあえずシゲ直伝の営業スマイル
を浮かべようとするが、どうにも引きつってしまう。

ツバサの隣にタキの檻。名札の横に画用紙で貼り付けされた「短期
売れ筋トップ!ネズミ退治はお任せ」とか書いてある。

「いらっしゃいませ」

こちらは完璧な営業スマイルだ。にこにこと笑ってはいるのだが、
それに少し寒気を覚えて次の檻にめを移した。その横のすでに檻の
中のフジシロが騒ぎ出す。

「ツバサー!逃げてー!そいつ怖いよーっ」

半分本当で、半分冗談、といったような言い方でフジシロがツバサ
に叫ぶ。言われたツバサの方はというと、相変わらずひきつった笑
みなのだが微妙に後ずさっている。それを見て三上は思わずため息
だ。そして、フジシロに一瞥。それで黙るわけでもなく、がしゃが
しゃと檻を揺らす。

しかしどうやらその檻の音は一つではないようだった。奥のずいぶ
ん粗野に扱われているナルミ。もの凄い形相で三上をにらんでいる。
もはや彼に客に媚びを売る云々は頭にないようだ。

「コルァー!てめぇ!何勝手に触ってやがる、この野郎!」
「…」

随分変なものを飼っているなぁ、と三上は思った。あれで犬?フジ
シロがむかつくにしろ、にこにこしている分には可愛い部類だ。そ
んな事を考えながら、とりあえずそこを離れた。

そして次に「NEW」と書かれているところには「タケミ」という名
札がかけられてる檻に近づく。その時には茶髪の店員がナルミに手
刀を喰らわせて黙らせていた。

種類はウサギ。色は黒だ。割合大きな目をこちらに向けて様子を伺
っている。長く生えた耳が、物音に反応してぴくぴく動いている様
子を三上はじっと見た。フジシロにしろ、今目の前にいる動物にし
ろ、違和感と同時に何か可愛らしさがある。自分の中で生じる感情
に疑問を持ちながら、「見てるだけ」をやめない三上。

「あ、あの…」

それに耐えかねたのか、タケミが上擦った声で話しかけた。様子か
らして、ここに入荷されて間もないらしい。

「うわ、喋るのか」
「喋りますけど…。…」

フジシロも喋るのだから、それぐらいは想像できたのだが、思わず
口にした驚きの声。それにむっとした様子で受けるタケミ。愛想笑
いのタイミングを逃してしまったようだ。

「…」
「…」

沈黙が続く。しかしお互い視線は外さずにいる。

「タケミー!逃げてー!食われるぞー!」
「食わねぇよっ」

そのフジシロの言葉にはさすがに我慢出来なかったのか三上がつっ
こむ。

「…」

ふぅ、と息をついて、すんません、と店員を呼んだ。呼ばれたのは
金髪の店員、シゲの方だ。

「お決まりですか?」
「いや、二人とかいっぺんに借りれるのか聞きたくて」
「はい、可能ですがビデオレンタルなどと違って一人に対する需要
  が大きいので割高となりますが」

シゲは終始笑顔だ。高く借りられた方がいいに決まっている。しか
も今の様子からして入荷したばかりのタケミが借りられるかもしれ
ないのだ。しかし。

「あ、そう。…じゃ」
「…借りるんやないんか?」

あっさりと帰ろうとする三上に、シゲが素でつっこむ。

「オレ見てるだけだしな。今度渋沢に借りさせる」
「……またお越し下さい」

胸中で二度と来んな、ボケぇと思っているようには思えないような
笑顔で見送る。

カラン

扉につけてあった鐘が一人の客を送って鳴った。


「…あーゆーんは嫌な客言うんや」
「大丈夫です、顔と名前は覚えましたから」
「上出来やわ」












→店長失格









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