「スガ、ちょお店頼むわー」
「いいですよ。食事させときますね、キッチン借ります」
「おー」







                              店長失格







シゲはツバサの世話をしているかと思ったら突然スガに店を任せて
奥に入っていった。もちろんツバサも一緒である。ただ、シゲの様
子がいつもと違うような気がしたのか、少し不安そうな顔をして見
上げていた。

「ツバサ」
「な、何?」
「…お前…」
「…」

奥のバスルームの入ると、かがんで真顔でツバサに詰め寄る。詰め
寄られたツバサはごくりと喉を鳴らした。頭の中で自分は何かした
のかと必死に思い出すのだが、何も思い当たらない。自分が知らな
いうちにシゲを怒らせてしまったのだろうか。

「…安物のシャンプーで洗われたやろ」
「……は?」
「いつもより髪にふわふわ感がないねん!洗うで、脱ぎぃ」
「……髪??」

シャツのボタンを器用に脱がされてツバサは言われている意味を反
芻していた。どうやら自分には悪いところはなかったらしい。しか
し、まだどこかシゲが怒っているような気がしていた。

しゃこしゃこ

ツバサのお気に入りは、シゲのシャンプーだ。さすがに回数を重ね
ているだけ合ってその腕は一級品。その気持ちよさに目をつむって、
いい気分である。

「んー…シゲ、一週間ぶり」
「せやな」

ツバサは素っ裸で椅子に座り、目の前にいるシゲを薄く開いた目で
眺める。まくりあげたTシャツに、縛った金髪で少し笑っている。
久しぶりに会えたのが嬉しいのだろうか。でもそんなことを口にす
るシゲではない。

「これからもこれぐらい離れるのかなー」
「黒川氏に気に入られたようやしな」
「うん、マサキは好きだよ」
「…」

頭を洗っているシゲの指の力が強くなったような気がした。また怒
ってしまったのだろうか。シゲは見かけに寄らず素直なところがあ
る。ツバサはそれを知っていた。

「…ジェラシー?」
「…ちょっとな」
「ふぅん…」

(ちょっとかー)

それが残念に思われた。それでも、それが本心かは分からない。結
局自分はシゲにとってただの商品に過ぎないのだろうか…そんなこ
とまで考える。

「あのね、シゲ」

相変わらず指の力は強い。だけれど、その強さは苦痛ではなかった。
こちらのことを考えてのぎりぎりの力加減。

「ちゃんと戻ってきてるよ?…ここに帰ってこない事はないから」
「…流すで。目ぇつむっとき」
「…」

何日もの間離れていても。自分がもどってくるのはここだから。き
っとこれは変わらない。マサキが好きでも誰を好きでも。シゲのこ
とも好きであるなら、きっとここに戻ってくる。

シャンプーが終わり、シャワーで泡を洗い落としていく。その間ツ
バサはそれが目に入らないように気をつけた。今、シゲがどんな顔
をしているか知りたっかったけれど。シャワーが止められて、次に
くるのはリンスだろうかと考えていると、薄く開けた目の先に、ア
ップのシゲは映った。

「…濡れてる」
「かまへんよ」

ツバサの髪から滴った雫が、シゲの頬を伝って下に落ちる。触れた
唇が、シゲの唇を湿らす。ツバサは抵抗することなくそのキスを受
け入れた。

「店のもんに手、出してる」

もう一度キスを。

「店長やのにあかんなぁ」
「…店、始めたばっかなのに」

それ以上はなかった。

「…乾かそか」


タオルにくるまれて、がしがしと髪をタオルで拭かれ、低温のドラ
イヤーで髪を乾かされる。言葉はなかった。何も言わなかった。

シゲに洗って貰うときのシャンプーはいい匂いがする。その匂いが
続く限りきっと自分はシゲのそばにいることなのだろうと頭のどこ
かで思った。















→ ディンドン









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